藤原仲麻呂（恵美押勝）の乱は、奈良時代の重要な政治的事件の一つで、藤原氏の勢力拡大と権力闘争を象徴しています。
本記事では、藤原仲麻呂の背景、乱の原因、そしてその結果が奈良時代の政治体制に与えた影響について詳しく解説します。
高校日本史のテスト対策に役立つ内容を提供し、重要な年号や人物をしっかりと整理できるようにします。
藤原仲麻呂（ふじわらのなかまろ）は、奈良時代の藤原氏の有力な政治家で、特に聖武天皇とその後の称徳天皇の時代に活躍しました。
藤原仲麻呂は光明皇后の甥という血筋で、藤原氏の中でも重要な位置を占め、中央政界で権力を拡大しました。
聖武天皇の宮廷内で実力を蓄え、次第に自らの影響力を増していきました。また、仲麻呂が宮廷内での地位を高めることで藤原氏全体の地位も高まっていきました。
藤原仲麻呂がどのようにして権力を握り、藤原氏の中での地位を高めていったのかは、仲麻呂の政治的な策略と個人的な能力によるものです。
聖武天皇の治世では、長屋王の変の後、藤原四兄弟が実権をにぎっていました。その藤原四氏が天然痘で亡くなった後は橘諸兄が大きな勢力を持っていました。
そこで、仲麻呂は叔母の光明皇后の引き立てを活かして聖武天皇の時代に重用され、橘諸兄に対抗しました。
なお、長屋王の変については以下の記事でくわしく解説しています。
長屋王の変とは？背景から影響まで徹底解説｜聖武天皇や光明皇后の関わりも解説
藤原仲麻呂は光明皇后だけでなく、従妹である孝謙天皇（後の称徳天皇）とも良好な関係を築いていました。
そのため、聖武天皇が孝謙天皇に譲位すると、藤原仲麻呂は即座に大納言に昇進。またたく間に橘奈良麻呂を圧倒しました。焦りを覚えた橘奈良麻呂は反乱計画を立てますが、露見して捕らえられ、拷問の末に獄死しました。
橘奈良麻呂の変については以下の記事でくわしく解説しています。
橘奈良麻呂の変とは？藤原広嗣の乱や恵美押勝の乱とのつながり、主要人物の解説【高校日本史テスト対策】
その後、仲麻呂は孝謙天皇の摂政としても大きな権限を持ち、実質的な政治の支配者となります。
参考：富田林市/文化財デジタルアーカイブ「藤原仲麻呂の栄光と没落」
孝謙天皇は聖武天皇の娘で、彼女の即位は藤原仲麻呂の勢力拡大に大きな影響を与えました。
孝謙天皇が即位した背景には、聖武天皇の後継問題や藤原氏の支配力を強化したいという狙いがありました。仲麻呂は、彼女の即位を支えた立役者の一人として、その後の政治を主導しました。
特に、孝謙天皇の治世では、藤原氏の権力を強化するために仲麻呂は天皇との緊密な関係を築きました。
この時期、藤原氏は宮廷内でますますその地位を確立し、政治的な影響力を強めていきます。しかし、孝謙天皇の治世は、藤原氏の権力拡大を巡る内部での対立を引き起こすことになります。
孝謙上皇と藤原仲麻呂の関係は、単なる政治的なものだけでなく、個人的にも深い絆がありました。
仲麻呂は孝謙天皇の信頼を得て、その摂政として実質的に国家を動かしていたため、彼の権力は絶大でした。
「恵美押勝」孝謙天皇が仲麻呂に頼り、彼に任せることが多かったため、仲麻呂はその後の政治に大きな影響を与えました。
孝謙天皇が譲位して淳仁天皇が即位すると、その良好な関係にすきま風が吹きます。
当時は上皇と天皇が二頭体制で政治を動かしていました。そのため、上皇と天皇の間に政治的な意見の食い違いが生じることがありました。
藤原仲麻呂は淳仁天皇より「人民を恵む美が優れ、乱を防いで押し勝つ功績があった」とたたえられ、「恵美押勝」（えみのおしかつ）の名をたまわりました。
そのため、藤原仲麻呂は孝謙上皇との関係を維持しつつ、淳仁天皇との関係も重視しました。藤原仲麻呂と孝謙上皇との間にやや亀裂が生じるきっかけになりました。
こうしたタイミングで孝謙上皇は病に倒れます。その孝謙上皇をそばで看病したのが道鏡でした。
この一件以来、孝謙上皇は道鏡を寵愛するようになりました。
その関係に藤原仲麻呂が淳仁天皇をとおして反対意見を伝えたため、孝謙上皇と淳仁天皇・藤原仲麻呂の間に大きな亀裂が入りました。
参考：福井県立図書館『福井県史」「愛発関と恵美押勝の乱（1）」
奈良時代の政治体制は、中央集権を基盤とした「律令制」が特徴でした。この制度のもとで、天皇が絶対的な権力を持ち、中央政府（律令官僚）と地方政府（国司）が強い統制を取っていました。
平城京（現在の奈良市）は政治の中心であり、奈良時代の政府は平城京を拠点に運営されていました。この時期、藤原氏は天皇に仕える役職を持ち、政権の中枢に進出していました。
藤原仲麻呂はその中で、橘氏との権力争いで勝利し（橘奈良麻呂の変）、摂政や太政大臣などの要職を占め、実質的な権力を掌握しました。
仲麻呂の権力拡大に伴い、他の貴族や僧侶との権力闘争が激化し、最終的に藤原仲麻呂の乱を引き起こすこととなります。
藤原仲麻呂の乱は、主に道鏡との権力闘争が原因で勃発しました。
前述のように藤原仲麻呂は、孝謙上皇の摂政として権力を握り、実質的に国家を動かしていました。ところが道鏡が孝謙上皇の信頼を一身に集めるようになり、藤原仲麻呂の政治的権力が脅かされるようになりました。
さらに、淳仁天皇・藤原仲麻呂側の軍事責任者が急死。後任の人事を孝謙上皇が決め、さらに人事を含む政務の重要な判断を孝謙上皇が行うと宣言しました。
ここに至って、淳仁天皇・藤原仲麻呂の政治的権力は失われ、孝謙上皇・道鏡が政治の中心になりました。
藤原仲麻呂は政治の実権を取り戻すために反乱を起こそうとして露見。計画は失敗に終わり、淳仁天皇は天皇位を奪われたうえに淡路島に流罪となり（淡路廃帝）、当地で没しました。
藤原仲麻呂も処刑され、孝謙上皇が重祚（退位後にふたたび天皇になること）して、称徳天皇となりました。
藤原仲麻呂の乱の結果、彼は敗北し、最終的に処刑されました。
この結果、藤原氏を含む貴族は権力を失い、代わりに僧である道鏡が大きな権力を握ることになりました。
称徳天皇（孝謙上皇）の信頼を得た道鏡は、太政大臣禅師という太政官の最高位に就きました。道鏡はさらに天皇位簒奪も画策します。
道鏡は、「道鏡が皇位に就くべし」と宇佐八幡宮より神託を受けたと主張し、確認のため和気清麻呂を宇佐八幡宮に派遣。
ところが和気清麻呂はそうした神託はないという報告を持ち帰ったため、道鏡の計画は失敗に終わりました。
道鏡の天皇位簒奪は失敗しましたが、朝廷の貴族内では奈良の仏教勢力（南都六宗）への不信感が強まりました。
道鏡以前にも僧・玄昉が政治の中心になるなど、仏教勢力がたびたび朝廷の政治に大きな影響力を持つようになりました。
こうした奈良の仏教勢力の影響を抑えるため、桓武天皇は長岡京や平安京に遷都しました。
こうして、奈良時代から平安時代へと移っていきました。
藤原仲麻呂の乱に関連する重要年号としては、乱が発生した「756年」が挙げられます。
また、用語としては「藤原仲麻呂（恵美押勝）」「藤原四兄弟」「橘諸兄」、「孝謙上皇」「淳仁天皇」、「橘奈良麻呂の乱」「藤原仲麻呂の乱」が重要です。
これらの用語を整理して、年号や人物の関係を覚えることが効率的な学習につながります。
記述問題では、藤原仲麻呂の乱の流れとその意義を簡潔にまとめることが求められます。
乱の背景、原因、結果を簡潔に整理し、特に藤原仲麻呂の失脚が奈良時代の権力構造に与えた影響について述べることが重要です。
奈良時代の主要な出来事を年表形式で整理することで、藤原仲麻呂の乱をはじめとした政治的な背景や変化を理解しやすくなります。
| 710年 | 平城京に遷都される |
| 718年 | 『養老律令』が藤原不比等らによって撰定される |
| 723年 | 三世一身法が制定される |
| 729年 | 長屋王が謀反の疑いで自害する（長屋王の変） |
| 740年 | ・藤原広嗣の乱が起こる ・聖武天皇が恭仁京の建設を開始する |
| 741年 | 国分寺建立の詔が発布される |
| 743年 | ・大仏造立の詔が出される ・墾田永年私財法が施行される |
| 752年 | 東大寺大仏の開眼供養が行われる |
| 753年 | 唐より鑑真が来日する |
| 757年 | 橘奈良麻呂の変が起こる |
| 758年 | ・淳仁天皇が即位する ・藤原仲麻呂が「恵美押勝」の名を賜る |
| 764年 | ・藤原仲麻呂の乱が起こる ・孝謙上皇が重祚して称徳天皇が即位する ・淳仁天皇が淡路に配流される（淡路廃帝） |
| 769年 | 宇佐八幡宮神託事件が起こる（道鏡が天皇になり損ねる） |
| 784年 | 長岡京に遷都される |
| 785年 | 藤原種継が暗殺され、早良親王（桓武天皇の弟）が流罪となる |
年表を用いて、政治的な流れを押さえながら学習することが効果的です。
なお、以下の記事では奈良時代の出来事について年表を使ってくわしく解説しています。
奈良時代の年表：奈良時代の流れや出来事の解説と年表を使った中学・高校のテスト対策の仕方を紹介
また、藤原仲麻呂の乱の24年前には藤原広嗣の乱は起こっています。どちらも藤原氏が権力争いに敗れた末の反乱という点で共通しています。藤原広嗣の乱については以下の記事でくわしく解説しています。
藤原広嗣の乱を徹底解説！背景・経緯・影響と長屋王の変や橘奈良麻呂の変とのつながり【高校日本史】
A1:
藤原仲麻呂（ふじわらのなかまろ）は、奈良時代の藤原氏の有力な政治家で、孝謙上皇の摂政として権力を握った人物です。彼は藤原氏の勢力拡大を支え、最終的に「藤原仲麻呂の乱」を引き起こしました。
A2:
藤原仲麻呂が権力を拡大した背景には、孝謙天皇（上皇）の信任を得て中央政治で実力を発揮したことが大きいです。さらに、淳仁天皇の摂政として実質的な政治の支配者となり、藤原氏内での地位を確立しました。
A3:
藤原仲麻呂の乱は、756年に発生しました。政敵である道鏡を排除しようとして乱を起こしましたが、敗北して処刑されました。
A4:
藤原仲麻呂の乱（恵美押勝の乱）の結果、藤原仲麻呂は処刑され、藤原氏の権力は大きく低下しました。また、道鏡も孝謙上皇の死後に失脚しました。
A5:
藤原仲麻呂の乱（恵美押勝の乱）は、僧・道鏡の権力独占を招きました。天皇と貴族の協力によって政治が行われていましたが、仏教勢力が政治を動かす事態に陥りました。
この反省が平城京から平安京への遷都につながり、政教分離の原則がつくられるようになりました。
A6:
藤原仲麻呂の乱の原因は、藤原仲麻呂と道鏡による政治的権力の競争です。
藤原仲麻呂は淳仁天皇を後ろ盾とし、道鏡は孝謙上皇を後ろ盾としていました。孝謙上皇が淳仁天皇を上回る権力を行使したことで藤原仲麻呂は権力を失い、反乱を起こしました。
A7:
藤原仲麻呂の乱における主要な人物は、藤原仲麻呂と淳仁天皇、道鏡と孝謙上皇（のちの称徳天皇）です。藤原仲麻呂は乱の主導者であり、道鏡と孝謙上皇によって反乱が防がれました。
A8:
乱後、藤原氏の朝廷内での権力は低下しました。代わって道鏡が専横をふるいました。
A9:
奈良時代の政治体制は、中央集権的な「律令制」であり、天皇が最高権力者として統治し、天皇を補佐する人物が中央政府の強い統制を取っていました。
藤原氏はこの体制内で主要な役職を占め、ほかの貴族や仏教勢力と権力争いをしました。
A10:
記述問題の対策としては、藤原仲麻呂の乱の背景、原因、結果をしっかりと整理し、藤原氏の権力構造や乱後の政治的影響についても触れることが重要です。また、年号や登場人物を正確に記憶しておくことがポイントです。
藤原仲麻呂の乱は、奈良時代における藤原氏の政治的勢力争いが表面化した結果として発生しました。
乱の背景には、藤原仲麻呂の権力拡大と孝謙上皇との関係、藤原四兄弟との対立が深く関わっています。乱の結果、藤原氏は一時的に権力を失うこととなり、その後、藤原四兄弟によって権力基盤が強化されました。
この事件は、奈良時代の政治体制に大きな影響を与え、平安時代への転換点となりました。
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